- ピンを取り出せたけど上手く戻せない
- ピンの正しい入れ方を知りたい
「ベルト調整したいけど、ピンの入れ方がわからない…」と感じている方は多いです。ピンやコマの仕組みを理解してから作業すれば、苦戦することなくピンを入れられます。
この記事を書いた人

モリオ
- 時計店で10年勤務
- 毎日10本以上の腕時計に触れ、電池交換や修理に対応
- セイコー・シチズン・カシオなど国産腕時計の知識が豊富
- 初心者にもわかりやすく解説するのがモットー
この記事では、毎日のようにベルト調整している現役の時計屋の私が、正しいピンの入れ方について解説します。記事を読めば、スムーズにピンを入れられるようになるでしょう。




ピンを上手く入れるコツも紹介しているので、ぜひ参考にしてください!
腕時計のベルトによく使われる4種類のピン



腕時計のベルトによく使われるピンは、主に4つあります。ご自身の腕時計がどのタイプに当てはまるかチェックしてください。
割りピンタイプ
「ピンが入らない」と感じている方の多くは、割りピンタイプであることが多いです。腕時計のベルトのなかでも、最も多く使用されているタイプとなります。



割りピンは、上記の写真のようにピンが二股に分かれており、先端が膨らんでいる構造が特徴です。膨らんだ箇所が穴に引っかかることで、抜けない仕組みになっています。
割りピンタイプのベルトを横から見ると、細い線が見えるのが目印です。コマに矢印があり、側面から見ると薄い線がある場合、割りピンタイプであると判断できます。



Cリングタイプ
10万円以上の高価な腕時計によく使用されているのが、Cリングタイプです。割りピンのように二股になっておらず、ただのピンであることが特徴です。



またCリングタイプは、棒とリングがセットになっています。ピン1本に対してパイプが1つであることが一般的です。腕時計によってはピン1本に対して、パイプが2つ使用されていることもあります。
横から見てみると、Cリングタイプは割りピンのように線がないことがわかります。矢印の記載がないことも多いため、基本的にはどちらの方向から抜き取っても問題ありません。ただし矢印がある場合は、従った方がスムーズにピンが入りますし、抜きやすいです。



ネジタイプ
ネジタイプも比較的高価な腕時計に使用されます。特に、海外ブランドの時計に採用されることが多いです。



ネジタイプは、名前のとおりネジを締めて留めているので、割りピンやCリングのように叩いても外れません。側面から見た場合、割りピンと間違えやすいため注意が必要です。



割りピンの細くて浅い線より、ネジタイプの方が幅が広く、深い溝があることが特徴です。ネジタイプのなかには、両ネジタイプ(コマの左右どちらにもネジがついている)も存在するため、よく確認してから作業に取り掛かりましょう。




両ネジタイプは個人で行うことが難しいため、傷だらけにしないためにもプロに依頼しましょう!
らくらくアジャスト・シンプルアジャスト
らくらくアジャストはセイコー、シンプルアジャストはシチズンが展開しているベルト構造です。付属の工具を使えば、初心者の方でも簡単にピンの出し入れが可能です。ハンマーやピン抜きといった工具を揃える必要がないため、手軽にベルト調整できます。



らくらくアジャスト・シンプルアジャストのタイプは、ピン1本に対してバネ状のパイプが1本セットになっているため、構造はCリングに近いです。横から見た場合も割ピンのように線がないため、Cリングと勘違いしてしまうこともあります。



購入した際のBOXに「付属の工具」が同梱されていれば、らくらくアジャスト・シンプルアジャストだと判断できます。さらにセイコーまたはシチズンで、価格が3万円程度でかつ最近のモデルであれば、このタイプである可能性が高いです。
腕時計のベルトのピンを入れる際に必要な5つの道具



腕時計のピンを入れる際に必要な工具は以下の5つです。ただし、ネジタイプ以外の構造であれば「細いマイナスドライバー」は不要です。
- ハンマー
- ピン抜き
- 精密ドライバー
- ベルトの固定台
- 柔らかい布(必須ではない)
ハンマー



ハンマーは、ピンをしっかりと打ち込む際に使用します。指の力でピンを最後まで入れることは不可能なので、ベルト調整する場合にハンマーは必須の工具です。
ハンマーの叩く部分には、金属とプラスチックのタイプがありますが、ベルトに傷をつけないためにもプラスチック付きをオススメします。最初は金属部分で叩き、コマに近づいてからプラスチック部分で叩くのが理想です。
ピン抜き



ピン抜きとハンマーをセットで使うことで、ピンを出したり入れたりが可能です。ピン抜きを使用する際は、コマの穴のサイズに合った太さを選ぶようにしましょう。
ピン抜きでベルト調整するのが理想ですが、どうしてもない場合は、以下の道具でも代用できます。
- 画鋲
- クリップ
- 安全ピン
ただし滑るとコマに傷がつくので、少し試してみて無理そうであれば、すぐに止めるようにしてください。
精密ドライバー



精密ドライバーは、ネジタイプのベルト調整に使用します。ネジの頭が潰れないように、サイズの合うドライバーを選ぶようにしましょう。
精密ドライバーは100均でも販売されています。しかし、安価な工具は刃先がすぐに欠けるため、1,000円以上のドライバーを購入しておくと安心です。
ベルトの固定台



安定してピンを入れるためには、ベルトの固定台が必要です。「一般的な固定台」と「万力タイプの固定台」がありますが、しっかりベルトを挟める上記写真の右側の「万力タイプ」をオススメします。
固定台の底には穴が空いており、ピンを叩くとその穴に抜けたピンが落ちる仕組みです。万力タイプを使用すれば、つまみを絞ってベルトを固定させることができるため、比較的初心者の方でもやりやすいと言えます。
柔らかい布(必須ではない)
ピンを入れる際の下敷き代わりに、柔らかい布を使用します。必須ではありませんが、机に傷がつくのを防止したり、衝撃を吸収したりする効果があります。
厚みのあるクッションを敷くと、安定しないのでピンが入りづらいです。タオルやハンカチといった、薄手の布を敷くようにしましょう。
【タイプ別】腕時計のベルトのピンを入れる方法
腕時計のベルトのピンを入れる方法を、以下のタイプごとに解説します。目的のピンがすぐ見られるように設定していますので、クリックして確認してください。
割りピンタイプの場合
割りピンタイプのピンを入れる場合、まずはコマの矢印をチェックします。ピンを入れるときは、矢印に向かう形で差し込みます。



ベルトを固定台に乗せて、入れたピンを叩きましょう。ある程度ピンが入ったら、コマに傷がつかないように、ハンマーのプラスチック部分で叩くことをオススメします。



ピンをすべて差し込んだら、ピン抜きを使って左右の溝が均等になるように叩きます。均等にする理由は、ピンが簡単に抜けないようにするためです。



割りピンの頭が太くてなかなか入らない場合は、ハンマーで軽く叩いたり、ペンチがあれば少し潰してみてください。割りピンの幅が狭くなるので、入りやすくなります。







潰しすぎはピンが抜ける原因となるので、軽い力で少しずつ調整しましょう!
Cリングタイプの場合
Cリングタイプのピンを入れる場合、まずはコマにパイプを差し込みます。左右で穴の大きさが違うので、穴の大きい方にパイプを入れます。



パイプを入れたコマと繋げたいコマを連結させて、穴にピンを差し込みます。



ピンがすべて差し込まれたら、ピン抜きを使って左右の溝が均等になるようにハンマーで叩きましょう。均等にできたら、Cリングタイプは完了です。



ネジタイプの場合
ネジタイプは、精密ドライバーを使用して回すだけなので簡単です。時計回りにネジを締め、締まり切ったら最後に一度ギュッと力を加えます。



年数の経過したネジは、空回りして締めきれないケースも多いです。その場合、ネジ用の接着剤を使用するか、ネジやコマ自体を交換する必要があります。
らくらくアジャスト・シンプルアジャストの場合
らくらくアジャスト・シンプルアジャストの場合、付属の専用工具を使えば誰でも簡単にピンを入れられます。



先にコマの穴にバネ状のパイプを入れて、パイプが落ちないように支えながらコマを連結させます。最後に穴にピンを通し、工具で押し込んで穴の溝を均等にすれば完了です。



腕時計のベルトのピンを上手く入れるコツ



腕時計のベルトのピンを上手く入れるには、以下の3つのコツがあります。
- 矢印の通りにピンを入れる
- 真っ直ぐハンマーを叩く
- しっかり入っているか確認する
矢印の通りにピンを入れる
特に割りピンタイプの場合、必ず矢印通りにピンを入れるようにしてください。ピンを抜く場合は矢印が指している方向に向かって取り出す、入れる場合は矢印と反対に向かってピンを入れることを意識しましょう。
矢印に従わずにピンを入れると、次回ベルト調整する際にピンが抜けづらくなります。ピンの太い部分から抜こうとすると、コマから抜き取るまでに時間と労力がかかるためです。



スムーズにピンを入れるためは、矢印に沿って作業することが大切です。
真っ直ぐハンマーを叩く
ピンを入れるには、真っ直ぐハンマーを叩くことがポイントです。斜めに叩いてしまうとピンが曲がって、ピンを交換するか修理が必要になります。



特に割ピンの場合、斜めから叩くとすぐに曲がります。細く柔らかい金属のため、横からの力に弱い点に気をつけてください。
しっかり入っているか確認する
ピンを最後まで入れたら、しっかり入っているかピン抜き等を使用して確認します。軽くピンを押してみて、ピンが抜けないならしっかりと入っている証拠です。
一方で少し押しただけでもピンが出てくる場合、ピンが劣化してきているか、コマの穴が摩耗して広がっている可能性があります。一旦ピンの交換を試してみてそれでも抜けるようなら、コマ交換が必要になります。
腕時計のベルトのピンを入れる際の2つの注意点



腕時計のベルトのピンを入れる際は注意点が2つあります。以下の点を意識しながら作業を進めてください。
- 必要以上の力で叩かない
- ベルトのコマに傷がつかないようにする
必要以上の力で叩かない
ハンマーでピンを入れるときは、必要以上の力で叩かないようにしましょう。ピンが変形する原因となるため、適度な力で叩くことが大切です。
ハンマーを握って、手首をスナップする程度の力で打ち込むのが理想です。腕全体を振り下ろすほどの力でないと入らないなら、ピンのサイズが合っていないか、金属片が穴に詰まっているケースもあります。ご自身では難しいので、プロに依頼するのが賢明です。
ベルトのコマに傷がつかないようにする
金属のハンマーで叩き続けると、ベルトのコマに傷がつく可能性があります。ある程度ピンが入ったら、コマに当たっても大丈夫なようにプラスチックのハンマーに変更しましょう。
ベルトのコマに傷がつかないようにするには、セロテープを貼る方法が効果的です。コマにピンを入れたまま、その上からピンに貫通させてセロテープを貼ります。セロテープで保護することで、コマに傷がつくリスクを減らせます。



まとめ:それでもベルトのピンが入らないならプロに依頼する
腕時計のベルトのピンを確実に入れるには、ピンの構造を理解しておくことが大切です。お持ちの腕時計のピンの種類を確認し、ピンに合った工具を準備する必要があります。
特に割りピンタイプはコマに矢印が記載されているので、ピンを入れる方向を間違えないようにしましょう。ピンを入れる際はグラつかないようにベルトをきちんと固定して、真っ直ぐハンマーを叩くと入りやすいです。
力を入れてもピンが入らなかったり、曲がって上手く入らない場合は、時計店やメーカーに依頼すると解決します。力任せに行うと、ピンだけでなくコマが変形する可能性があるため、「難しそうだな」と感じたらプロに見てもらうことが確実です。